先日、特に期待していた劇場版アニメ『君の膵臓をたべたい』を見てきましたので感想等を。
後半よりネタバレ気味ですので視聴予定の方は前半の作品説明等までの方が良いと思います。
1.君の膵臓をたべたいという作品について
住野よるが別名義にて「小説家になろう」に投稿された青春小説です。
2015年に発行、その後17年に実写映画化、18年9月1日に劇場版アニメが公開開始しました。
出版された後、本屋大賞等を受賞し、加えて少し奇抜なタイトルということもあり、
一度はこの名前を見たことがあるのではないでしょうか?
ストーリーですが、
主人公である「僕」が病院で偶然拾った文庫本を拾います。
タイトルは「共病文庫」、この本は誰かの日記で、
日記の著者は膵臓の病気を患っており、もう長くないという事が記されていました。
その本を綴っていたのが、クラスメイトの山内桜良である事を知り、
彼女の家族以外で唯一、桜良の病気を知る人物となります。
そして、「桜良の死ぬ前にやりたいこと」に付き合わされることになり…という感じです。
原作の字体の雰囲気としてはラノベに近いものがあり、
稚拙な表現は多いものの、良い意味でとても読みやすい作品だと思います。
今回は主に、先日公開された劇場アニメをメインに綴っていきたいと思います。
2.キャスト・スタッフ
まずはじめにスタッフですが、
監督を務めるのは牛嶋新一郎監督、これまで『ワンパンマン』や『ALL OUT』等の作品にの助監督・演出として参加し、今作が初の監督作品となります。
キャラクターデザイン・総作画監督を務めるのは岡勇一さんです。これまでに、『NEW GAME!』や『エロマンガ先生』等の多数の作品で総作画監督、『ToLOVEる』シリーズのキャラクターデザインも務めていました。
一度はエンディング等で見かけた事があるかもしれませんね。
艶やかさや色っぽい総作監修が特徴的ですが、
今作においてはこれまでとは対になるような、とても爽やかで叙情的な雰囲気のキャラクターに仕上がっているように感じられます。
制作は「スタジオヴォルン」で、これまでに『うしおととら』『アイドル事変』の2作品を制作した新鋭で、
時期は未定ですが『からくりサーカス』の制作も決定していて、要注目のアニメスタジオです。
次にキャストですが、
主人公である「僕」を演じるのは俳優の高杉真宙さんです。
はいはいでたでた、どうせクソみたいなゲスト声優かよワロス
って思うでしょ?そんなことは全くありません。
とても素晴らしい演技だったと僕は思います。
「僕」があまり感情の起伏があまり無いから、ということもありますが、
「僕」の不安定感や未完成感がキレイに表現されていたように感じました。
次に、桜良役を演じたのはLynnさん、
素直に、桜良にピッタリはまっていたと思います。
桜良はグイグイ行く事が多い性格ですが、ウザすぎず消極的すぎず、という部分がとてもハマっていたように感じました。
また、両者の声の雰囲気がはっきりわかるほどに対照的になっている、というのはとても面白い点だと思います。
監督がインタビューでも答えていましたが、
「僕」の声を柱に置いて、咲良の声を「僕」とは180度正反対のタイプの声にした、というのは成功だと思います。
3.本編感想・考察等 – ネタバレ含みますので閲覧注意
まず最初に、この物語の主体はラブストーリーではなく、
咲良と春樹という二人の人間の関係性の変化や成長、そして救済の物語だと思うんですよ。
ここが上手く表現されていてとても嬉しかった、というのが一番大きいです。
実写版もとても良い作品に仕上がっていると感じるのですが、恋愛的なテイストが少し大きく、少し強引に感動を誘うような意図を少しだけ感じてしまったのですが、
アニメ版では、二人の関係や距離感が上手く表現されていて、
お互いの関係が「恋人」や「友達」という名前ではあてはまらない特別な関係なんだ、ということが強く伝わる内容になっていたと思います。
個人的にOPもなかなかだったと思います。
咲良の「君の膵臓をたべたい」というセリフから始まり、
最後に「君の膵臓をたべたい」というタイトルが出て、曲のキメの部分で反転して終わり。
OPの内容も非常にスッキリしていて、二人が出会う前の関係性の提示をすることで、
この「君の膵臓をたべたい」という作品の世界への入り口のように感じられました。
楽曲担当しているSumikaですが、
劇中に登場する3曲、どの曲も、聴いて歌詞を眺めていると作品の情景が頭に浮かぶようで、
どの曲も作品に寄り添って作られている事が感じられます。
作画ですが、
全体を通して、日常の何気ない動作がとても丁寧に作られているなぁ、と感じました。
歩く、走る、笑うなどの人間の基本的な動作がとても丁寧に描写されているおかげで、
キャラクターにリアリティが生まれ、感情移入しやすくなっていた思います。
また、リアリティのある作画だけでなく、撮影にも同じように力が入っていたな、と。
写実的なニュアンスや露出感のある表現が多く、
望遠レンズを通したような描き味を上手く再現しつつ、実写映画を見ているような感覚が上手く表現されていましたね。
演出面で言えば、ラストの咲良の遺書のシーンなんですが、
『星の王子さま』を読んでいない方には理解しにくかったのではないだろうか、
と不安になったのですが、皆様はどう感じたでしょうか?
この「咲良の遺書のシーン」全体が『星の王子さま』を辿る形になっていたのですが、
劇中では急にファンタジー世界に転換するので、
なぜいきなりタッチが変わったのか理解出来ない人もいたのではないか、とゆう不安が大きかったです。
個人的にはとても面白い演出だと感じました、まさに、アニメならでは、であると。
実写版では視聴者に気遣ってか、
「『肝心なことは目に見えない』
『さよならをし、悲しませるくらいなら仲良くならなければ良かった』と嘆く星の王子さまにキツネが説いた言葉です。」
という『星の王子さま』の作中を引用したセリフ始まるのですが、
アニメでは、『星の王子さま』の内容に対してはアプローチが無かったと思うので、
咲良が持っていたのが何故『星の王子さま』なのか、という点への主張は弱かったと思います。
さくらの生き方やポリシーの根底は『星の王子さま』に繋がる部分が多いので、
未読の方は是非読むべきである、と思いますよ。
余談ですが、映画では内藤 濯翻訳のオリジナル版が小道具として使われていますが、
アニメでは河野 万里子翻訳版の方が使われているようです。
まとめ
この作品は、キャスト・スタッフ、このアニメに関わる全ての人が、この作品に対して、
深く愛を持って制作されてるなぁ、と感じられる作りになっていたと思いました。
実写版より早く、刊行の前よりプロジェクトが始動していた、という事もパンフレットで語られていますが、
時間をかけて真摯に向き合い、作者の意図を崩さないように忠実に、
原作の読後の感覚が視聴者へキレイに伝わるように、
そういった意味でのクオリティが本当に高かったと思います。
どんな作品のメディアミックスも、原作至上主義の人からの声が聞こえてきますけど、
今作に限っては心配いらないよ、と言いたいですね。
忠実に、正確に、正しく、だけどそのままってわけではないよ、と。
そう思える素晴らしい完成度になっていたと、僕は思いました。
また次の作品であいましょう。